俺はお前を尊敬してるんだよ。
012:少しだけ素直になってみる
ハヤテは友達をおいて自分の部屋に籠もってしまった。作詞するからと上がっていったが、今日、2人に見せるんじゃなかったんだろうか。もしくは、友達2人が俺に構いまくって拗ねてしまったのだろうか。
後者だとしたら、かわいすぎるけれども。
ハヤテの友達を交えて、というかたちになったけれど、久しぶりにハヤテと遊べて嬉しかった。リビングでゲームをしたのなんていつぶりだろうか。部屋にテレビを買ってからは、うるさくならないようにとヘッドホンをつけてゲームをしてたし、1人でやるようなものばかりだった。友達呼んでゲームするなんて、中学以来かもしれない。
カートゲームに飽きたのか双六ゲームで各都道府県のご当地グルメ巡りをし始めた頃、どこかの都道府県で何かに気づいたのか急に立ち上がりカバンを漁る米原くん。今止まっているコマではどうやらご当地アイドルのライブがどうこうという話だった。
「あっ! そうそう! カエデこれやるよ! 今度11月末に発表でさ、ライブやるんだよ」
「ああ、そうだった。ボクたち、学校外に友人少なくてさ、もらってもらえるとうれしい」
ニカッと笑う米原くんと微笑む加嶋くんからチケットを二枚ずつ渡される。ハヤテの行っている学校が音楽を取り扱う学校だとは知っていたけれど、こういうものを貰ったのは初めてで、ハヤテの学校に少しだけ興味がわいた。もともとアニメソングやキャラクターソングのようなものしか聞かない俺には分からない世界だろうけれど、食わず嫌いしないで歩み寄るチャンスなのかもしれない。
少しぐらいなら、普段のハヤテを覗いても怒られないだろう。
「あ、ありがとう」
「カエデが来てくれるなら頑張っちゃうよー!」
「片村兄がこなくても頑張ってくれ」
無線コントローラーを持ち上げ、嬉しそうに振り回す米原くんの頭を掴んでグリグリと撫でる加嶋くんが仲むつまじくて、思わずつられて笑ってしまった。
***
「じゃあまたなー!」
「本日は本当にお邪魔しました」
「カエデは送ってくれないの?」と同い年の男とはいえ、金髪碧眼の美少年に上目遣いで聞かれては断ることもできず、ハヤテと一緒に2人を駅まで送ることになった。その間、米原くんはずっとハヤテや加嶋くんの曲や歌のことを語っていた(恥ずかしいのか時々ハヤテが後ろからチョップしていた)のがとても印象的で、思わず聞き込んだ。自分の音楽観なんかも交えながらも語る米原くんはキラキラしていたし、音楽を作ること・聴くこと・観ること全て、どれほど好きかを熱く語っていた。道端で身振り手振りしている米原くんはとてもかわいかったなあ。
結局駅までずっと米原くんの独壇場で、いつも聞かされているのかハヤテや加嶋くんはゲッソリしているようにも見えたが、米原くんはお構いなしである。俺やハヤテと別れた後も駅の改札で小さな体を大きく広げては加嶋くんにデコピンを食らっていたのできっと熱が冷めないのだろう。興味深くて質問しまくって根ほり葉ほり聞いてしまったことに申し訳なく感じながら、来た道を戻っていく。
「ミツに変なこと、されなかったか?」
「……変なこと?」
変なことってどんなことだろう。よくわからなかったが、何もされていないことを告げると「そうか」と頷いた。米原くんはスキンシップが多いなあぐらいにしか思わなかったし、四方田や瀬斗もスキンシップは多いから特に気にしてはいなかった。
というかさ、まあ自分の勝手な憶測だったんだけどさ、せっかくハヤテと一緒に遊べると思ったのになあなんて、やっぱりちょっとは思ってしまったわけでして。
「ハヤテの友達いい人だな。俺見ても話聞いても引かないし、嬉しかった」
「へえ、そりゃよかったな。俺と違って兄貴に悪態ついたりしないから、楽しいだろうよ」
「……ハヤテも一緒に遊べば良かったのに」
「そうできないように話し込んでたのは誰だよ」
「え……あ、ご、ごめん……」
久し振りに普通に話を聞いてくれる人に会えてテンションがあがりすぎたのかもしれない。よく考えたら、2人はハヤテの友達で、ハヤテのために、ハヤテと遊ぶために来ていたんだ。それなのに俺としたことが友達との時間を奪うようなことをして……ああ本当にダメな兄ちゃんだ。気をつけなきゃいけないって思ってても、自分が楽しいと周りが見えなくなってしまう。弟でさえ気にしなくなるのは兄として如何なものなのだろうか。
もうちょっと弟を見ていないと。
ああでも……
「ーーでも、ハヤテと久々に遊べて嬉しかったよ」
「……は?」
は、外したーー!! そんな訝った顔しなくてもいいじゃないか。それは瞳に光を移さないような目だったし、既に寄っていた眉間の皺がさらに深くなった。
仲良くしたいだけなのに、何でこんなに俺は弟と会話するのが下手なんだろう。
「……あいつらがいなくたって、声かけてくれりゃ」
「えっ……ほんと?」
そっぽ向いてしまって弟の顔が見えないが、きっと呆れているのであろう少し前に傾いた頭を見つめて笑った。
***
2人を見送って帰ると、ゲーム機を置いていたリビングのテーブルの上に貰った4枚のチケットの入った茶封筒を置いてあるのを思い出す。そのままソファーに座り込み、三角座りをしつつ、スマートフォンの連絡先の画面を上げたり下げたりして数少ない友人を厳選する。空いている左手では茶封筒をパタパタと降って遊ばせていた。
そうだ。チケットをせっかく4枚貰ったんだ。ヨンとツガイちゃん、相談乗って貰ったし瀬斗、あたりを誘って行ってみようかな。初めてもらった身内のライブチケットなんだし、やっぱりお父さんたち連れてくべきかなあ。なんて、自分の脳内で思考を回転させる。
「なあ、あいつらになにもらったんだよ」
ハヤテは冷蔵庫から烏龍茶を出してカップに注ぎながらちらり、こちらを一瞥する。さも興味はなさそうなそんな声で、気兼ねなく声をかけてくるもんだから、ビックリしてしまった。
「えっ……な、内緒」
うまく笑えただろうか。ハヤテは俺の顔を見てまた眉間の皺が深くなったが、見なかったことにしよう。俺、隠し事下手すぎ。
しかし、ハヤテは今まで身内にこういうチケットなんかを渡してなかったみたいだから、行くって伝えたら来るなと言われるだろうし言わなくて正解だと思う。ハヤテには内緒にして友達とおいでと2人に言われたのだし、言わずに行くのも楽しいだろう。
まあ、後で怒られたりガン無視食らうかもしれないけど、せっかくハヤテのことが知れるチャンスだ。逃す手はない。
「――」
「……? なにか、言った?」
小さな声で発した言葉は耳に届かず、ハヤテは慌てたように「なんでもねえよ」と言い捨てて自分の部屋へと上がっていった。
to be continud
next is Hayate viewpoint