私達は
世界を救うために
この世に生を受けたの
ENDLESS KILLNESS
[番外]
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制
〜What was useful should die.〜
裁
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人間が生を亡くした時。それは、ヒトという肉が生まれる時。
灰色が混沌とした世界。
薄い風が髪を煽って、それに答えてなびく。
彼女の背よりも高い場にある鎌の刃が暗い太陽に光によって
妖死く光る。
「いつからヒトは喰べるべきモノとなったのか…。」
広い荒廃した地の上に立ち、薄暗い空を見上げる。
…ザッ…ザッ…
…ザッ…ザッ…
一定のリズムを崩さず、足をとが近付いて来る。
「…何の…用ですか?」
彼女は振り向きもせず、
何者かに言葉をかける。
「貴女が神に使わされし、この世界で特別な力を持つ、最初で最後の鬼鞍家:
魔術使い“鬼鞍世羅”ですね…?」
世羅と呼ばれた彼女は、くすりと笑って何者かのほうを向く。
「やけに回りくどい言い方ですね。ですが、その通りです。…それが何か…?」
彼女はそれを静かに認める。
すると、何者かは顔を上げて、己自身の顔を公開した。
背が高く、黒い背広を着ている。
金色の長い髪は後ろで束ねられているらしく、静かな風がその髪の先端だけを揺らす。
「そうですか…。僕の名は“間遠稀痲螺”。貴女を厭う者達より頼まれました故、致し方在りません…
死んで頂けますか?」
自分の名を名乗った彼は眼鏡を光らせてふわりと口元だけ歪ませて笑った。
とても本気だとは思えない本気。
そして、ヒトツの沈黙。それを破るのは、今顔を公開したばかりの青年。
「…なんて言ったって、そんな簡単に―――…」
「殺して頂けるのですか…?」
彼の声を遮り、彼女は答えた。
彼女はヒトツとも笑顔を乱すことはなく、微笑みを絶やさない。
「…な…何を言って…」
「殺して下さるのなら、お願いします。間遠さん、どうか私を―――
殺して下さい。」
彼女がその言葉を吐くや否や、二人の周りの空気は暗く重いものへと変わった。
それは、彼女が発する威圧感。
それは、彼が受ける威圧感。
暗く重く圧し掛かるドスグロい空気。
彼の身体を頭から足先まで、まさに徹頭徹尾で受ける圧力。
もう彼女の顔は
微笑っていなかった。
「早く、殺して下さい。」
彼の頭の中で響く。
“コロシテクダサイ”と暗いコトバが心臓を撃つ。
「殺して…くれないのですか?」
“コロシテクレナイノデスカ?”
心の臓が恐いほど強く早く打つ鼓動。
「ぅ…」
「さぁ、」
「…ぅあ…」
「早く」
「…く…ぅ…」
「殺して…」
「うゎあああぁぁあぁあああぁ!!!」
叫んだ。
恐くて叫んだのか。
辛くて叫んだのか。
痛くて叫んだのか。
哀しくて叫んだのか――――
―――…分からない。
心が…ナイ…。
「貴女は……何者なんだ…」
「私は
詞の魔法師。世界で一つ。唯一つの魔法師。言霊を操り、魅せる。」
微笑んでいた彼女の顔は冷たく、哀しい。
彼のほうを向いて、遠く。
見透かすような眼で射抜く。
彼女の精一杯の心からの冷たい瞳。
「何故…」
「…?」
「何故、貴女はそんなに哀しい眼をするのですか?」
彼女はハッとして、口を噤む。
まるでそれは、涙を堪えるように。
唇を噛み、口を堅く閉じて…。
見透かされたような顔をして…。
何故貴女は貴女の口を噤み、貴女の目は哀しい眼をしているのですか?
貴女は
貴女は何を
貴女は何を思って
アナタはナニをオモって
哀しむのですか?
「何が貴女を」
「―――…」
「哀しませるのですか?」
「―――…っ?!」
「何が心を」
「…ぅ…あ…」
「苦しませるのですか―――…?」
「…
さい…うるさい…!!煩い!!煩い煩い煩いぃぃぃぃ!!!!」
彼女は急に
何かが
キレてしまったように
叫んだ。
大声ともとれない怒号。
言霊を乗せずに発したその声は、余りにも心に響く。
重い重い苦しい思い。
苦しい苦しい哀しい気持ち。
哀しい哀しい思いコトバ。
声は近いのに遠い。
声は遠いようで近い。
幸せではないコトバ。
辛い気持ち。
哀しいウタ。
「私だって好きでこんな力を持ったわけじゃないんだ!!オマエなんかに何が分かる!何が分かる!!何が分かるぅぅ!!??
拒絶され疎外され、それでも頼られ、矛盾の毎日だ!!!それでも!!それでも私は―――…っ??!!」
彼女は途中でコトバを止めた。
止めたというよりも、止まってしまった。
彼は彼女の行動に何も言わず、何もせず。
止まったというよりも、止められた。
何かをするということが、出来なくなってしまった。
それは、麻痺のような感覚。
「私は人間が――…好きなんです。いくら、人間から拒絶されようとも、疎外されようとも、私が人間とは思われていなくて、感情が欠けていると思われていたって、私は―――…
哀しいのです…。」
一粒の哀しい水滴が地に―――…堕ちた。
「哀しくて遠くて人間が人間であることが羨ましい。疎ましい。厭わしい…。貴方も人間ですね――…羨ましい…恨めしい。」
苦い笑いを浮かべて彼女は<彼を見る。
それは、笑っているのか泣いているのか分からない苦い顔。
微小過ぎて微少過ぎて微笑過ぎて表情が読めない。
小さ過ぎて遠過ぎて密か過ぎて見えない。
見得ない。
魅得ない。
身、得ない。
「くっ…ふふふっ…あはっあははははははは…」
とても可笑しそうに彼は笑った。
彼は嘲笑うように嘲り笑った。
それは、自嘲なのか嘲笑なのか分からない。
「ふふっ。僕が人間と一緒ですか?何を云う何を云う何を云う!!あんな下等な
生物と一緒にするな!!
俺は人間じゃない。
死ねばヒトという名の食糧になっちまうあんな奴等と一緒にするな!!
俺は神造人間だ!
アンタと
同類だ。」
とても
犯死そうに笑って云った。
彼はとてもとても
犯死そうに笑って彼女に云った。
「私と…一緒…?!」
「ふふふっ。そうです。貴女と同じ。同類。まさかとは思ってましたが、神は僕に『同じくする者と共に制裁を』と言われました。貴女…だったのですね?」
「私は―――…神の子なのですか―――…?」
「さぁ?それは、貴女の心が知っていると思いますよ。」
「私の―――…心…?」
彼は
犯死く笑うことを止めた。
そして代わりに、ふわりと優しく微笑んだ。
「僕は、同類を殺せない。同類
は殺せない。」
シュルルルと棒の先につく
紐を棒の先に吸い込む。
それは鞭のような動きをする。
いや、
動物のような動きをする。
「これから、宜しくお願いしますね。世羅さん。」
「…はい…。よろしく…お願いします。間遠さん。」
遠い遠く遠い場所。
近い近く近いアナタ。
私は私。
アナタはアナタ。
僕は僕。
消える消えて私の存在。
見つける見つけて私の在る場所。
私たちは人を裁く制裁者。
20041223