肉口入禁止令。
肉、喰うべからず。
死肉、喰うべからず。
腐肉、喰うべからず。

ジン肉を喰うべし。



− ジン肉 −

[意味]
皮膚におおわれ骨に付着する柔らかい部分。一般に、皮下組織と筋肉をいう。
食用とするため切り取られたヒト体の柔らかい部分。



















ENDLESS KILLNESS
- HUMAN FLESH -
















 時は肉が喰べられなくなってしまった時代。
 牛肉。豚肉。鶏肉。
 人間のエネルギー源とも言える肉の存在が、ウイルスによって食べられないモノへと変化させた。
 牛肉は狂牛病。
 鶏は鳥インフルエンザ。
 豚は懐豚病ブレイク・ピッグ
 人間は、喰べる肉が亡くなった。
 我々が喰べられる肉はヒトの肉しか亡くなってしまった。




 ヒトとは好んで食べるモノなのか?




犯死オカシな質問だな…」

 そう言葉を吐いて、嘲笑。
 まるで、この世界のモノ全てに於いてがツマラナイモノの様に、笑う。
 嫌な顔。嫌な笑み。嫌な言葉。嫌な人間…。

「ジン肉とは好んで喰べるモノであって、嫌々喰べるモノではない筈だ。」

 男は笑いながら続ける。

「ジン肉を嫌々喰べる人間が何処にいる?肉なのだから。肉なのだから。 人間は喰べてきたではないか。牛を。豚を。鶏を。ただ、それが、ヒトになってしまっただけの話だ。」

 男は溜息をついた。
 そして、目を細めて僕を見る。

「何が悪い?そんなモノ、ヒトが悪いに決まっているだろう。人間は悪くないのだ。」

 減滅。幻滅。減滅。幻滅。減滅。幻滅。減滅。幻滅。減滅。幻滅。減滅……。
 ただの幻。滅亡。幻は滅殺。幻は幻でしかない。
 減ることは滅亡。ヒトが減ったって、人間は苦労しない。何とも思わない。
 ただ、何時の日か、人間はヒトになる日が来るだけで。
 怖くない。そう。君も、ヒトになるのだから。

「キミの意見も聴かせてくれるのだろう?」

 僕は口を開かなかった。

「どうしたんだね、間遠くん。意見を…」


…。

……。

………。


「そうですね。ヒトが悪い。しかし、君もヒトに成られるのでしょう?」

 僕は無表情。
 無感情。
 そして……無慈悲。

「ワシはヒトには成らん。ワシは金が有るからな。昔も今も金を持つ奴がトップだ。英雄だ。そうだろう、間遠くん?」
「…………。」


 間。


 肯定も否定もせず、公認も否認もせず、首肯もせず…。

 ただただ、冷たい…氷のような冷たい瞳に彼を映した。

 僕は喋らなかった。
 僕は話さなかった。
 僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は――――――――……





ザグリッ・・・



 無心で環貫カンヌキを振った。
 霧進で環貫は胸を貫いた。



ブチュッ・・・



プチッ・・・





 嫌な音だった。
 さっき話していたオジサンが肉片になった。
 簡単に。いとも簡単に肉塊に。肉片に。肉に。
 人間・・からヒト・・になった。
 脆い人間。去れど人間。元人間。今は、ヒト。
 所詮、どう足掻いた所で綺麗なまま終われるわけが無い。


 そうだ、電話をしよう。
 救急車…いやいや、救急車なんてモノ、一昔前にしかないぞ。
 だいたい、死んでるのに。床に染んでるのに。
 病院に電話なんてしたら怒られちゃうよ。
『ココは病院だぞ。ヒトなら、ジン肉買取業者に電話してくれ』
 ってね。


プルルルルルルルル


『はい。ジン肉買取業者です。』
「忙しい所スミマセン。間遠です。」
『あぁ、間遠さん。いつも・・・ご贔屓に、有難う御座います。』
「今日の肉はちょっと不味いかも知れれないけど、好きな人には好きな味だと思いますよ。」
『そうですか。』

 電話の向こうで、ジン肉買取業者の笑う声が聴こえる。
 明るい。
 オジサンみたいな、蛙を踏んだみたいな笑い声じゃなくて。子犬が吠えるような。

『それでは、ヒトの在る場所を教えて下さい。』
「場所は≪エリアK87-5番地区33≫です。」
『そうですか。それでは、其処でお待ち下さい。今から何時ものようにスタッフが行きます。』
「宜しく御願いします。」
『はい。』

 感じの良い声が聞こえた。
 明るい。
 オジサンみたいな、排水口みたいな音じゃなくて。日の下の洗濯物のような明るい声。
 人間、みんなコンナ人達だったらいいのに…。





 さようなら。
 犯死オカシいヒト…。





20040311