肉 肉
肉喰うべからず
ミート
meat



− 制裁 −

[意味]
社会や集団の規則・慣習などにそむいた者に加えられるこらしめや罰。
また、その罰を加えること。



















ENDLESS KILLNESS
- PUNISHMENT -
















 人減が暴力を蔓延り、ヒトが蔓延る堕ちていて馬鹿げた闇黒の世。
 人間はヒトという食べ物を見つけ出してしまった。見つける気もなかった。いや、盲点。それだけの話。 見つけてしまったのだから、見つけたものの勝ちだ。 人間の勝利。ヒトの惨敗。こんな物に勝ち負けがあるとは到底思えないのだけれど。
 ヒトはどう足掻いても人間には勝てない。寧ろ足掻けない。動けないんだから。 けれど、人間はどう足掻いてもヒトにならざる負えない。何故なら何時かは死が訪れるから…。




 独りの少年は黒い携帯電話を取り出し、短縮1を押した。


プルルルルル…


 携帯の頭に響く電子音が流れだす。



プッ



『はい、此方、ジン肉買取業者です。』
「馬鹿な真似は止せ、水落。」
『…兄上、今何処にいらっしゃるのですか?』
「俺?俺は今、丁度ヒトにしたところ。任務完了?って感じ。」
『そうですか。ならば今から私が良く必要性はゼロに近いですね。』
「あぁ、来ても来なくても良い。水落の好きにしてくれ。」
『はい。分かりました。』


 プツリッという音を待つ。待っても切らないことは百も承知の上、待ってみる。
 妹は失礼なことが嫌いだ。あと、裏切りとか…。だから、いつも話が終わると相手が切るまで待っている。 俺は、あんまり相手のことを気にしない性質(タチ)だから良く水落に怒られる。
 他人なんて【人間】か【ヒト】でしかない。寧ろ、他人に心遣い…なんて絶対無理だ。俺は人間とヒトをイコールで結んでる制裁者だから…。

 何て性質の悪い性格。
 何て性質の悪い性質。

 その嫌味さから姉の相方には【悪魔の子(イヴィルボーイ)】とまで言われた。 其れ程迄に嫌味なのだ。神に覇王の座に君臨させられた俺と水落。 姉の世羅は俺と水落が4つの時に魔女裁判に掛けられ死んだ。水に沈められたり、火焙りにされたり…。 今で言う拷問としか言いようがない其の裁判は、姉の相方が止める前に殺された。守ろうとした人間に殺されたのだった。
 惨かった。酷かった。4つの俺たちが見て精神がおかしくなるのも間違いではない程に悲惨な光景だった。 俺たち双子は最後まで、その場で立ち竦んで、燃えきった姉を空と合わせて見上げていた。
 人間が去っていった後もずっとその場に立ち竦んで動かなかった。姉の相方は人間が去った後にやってきて、水落と俺を抱きしめた。 泣いているように見えた。泣いていたのだろうけど、見せないように強く強く抱きしめた。 それは俺たちを安心させるためか自分の安堵感を求めたからかは分からなかったけれど…。
 俺たち双子は敢えて泣かなかった。泣く事も無かった。そんなに強くなかったから。 泣くほど姉を強く思うことも無かったから。 俺たち双子は俺たちよりも姉を思って泣いてくれる人間が居ることを知っていたから、敢えて泣くことを拒んだ…。



プツンッ



ツーツーツーツー…



 電話が切れた。妹は呆れ果てたのか、疲れ果てたのか電話を切った。
 もう少し遊びたかったのになぁ…と思うのもつかの間。 昔のことに現を抜かしていたせいで背後から近づいてくる奴に気付いていなかった。


「?!」


 勢い良く後ろを振り返ろうとした。 しかし、相手はもう近くに居たらしく治良が振り返る事無く治良の喉元は銀色の刃物が今にも切り裂かんと沿われされている。


「ぐぅ…」
「おやおや、駄目じゃないですか…。人間の気配を読み取れなくなっているぐらい落ちてしまってるんですか、治良君?」
「?!」


 後ろに立っていたのは、さっきまで考えていた【姉の相方】。
 金髪金眼で眼鏡を架けて黒いスーツに身を包んでいる。 金髪に合わ無そうなその黒いスーツは嫌に瞳を金色に輝かせ、黒い夜に良く映える。
透かした笑顔で人を見るのが得意。寧ろ、それが仕事。人間を見下して、相手に好意を持たせた上でアイロニカルに笑いながら、 棒と球をピアノ線で結んだ環貫(カンヌキ)という武器で相手を貫く。

 間遠稀痲螺。

 俺がこの世で一番忌むべき存在。
 姉を見殺しにした姉の相方。
 姉が一番愛した相手。

 俺はこいつを、殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて殺したくて殺したくて怖くて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて憎くて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて 殺したくて消したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて嫌いで嫌で 何もかもを潰してやろうと思った。

 だけど、殺そうとした時、間遠はこう言ったんだ。

『殺して下さい』

 と。
 俺は殺せなかった。姉が一番愛した相手で姉を一番愛した相手。 姉が見殺しにされた奴で姉を見殺しにした奴。俺が忌むべき相手で俺に忌まれるべき相手。
 殺せなかった。大きすぎて。多すぎて。こいつが抱えている物の大きさが俺よりも遥かに大きくて多くて切れなかった。 踏めなかった。縛れなかった。殴れなかった。蹴れなかった。

 明鏡止水の心境。

 俺は、潔過ぎる兄をこの眼で見てしまった。


 人間を殺してヒトにするのは只の仕事。そんなことは小さい頃からやってきた。殺人鬼とか殺人狂って言われるけれど、別に気にしてはいない。 寧ろ、有難いくらいだ。自分に殺されるということを分かっていながら、こんな世の中を『平和』だと云って生きていけるのだから。
 そう云えば、良く姉が云っていた。

 『平和』だと思えることが本当の『平和』よ。

 と。
 俺はそうとは思わない。寧ろ思えないが、俺たちの平和は人間をヒトにすることだから、平和だと思わずにいつも感じてしまっている。 危機感が無い。安堵感も無い。寧ろ在るのは、感じきれない空虚感。憎みきれない空間意識。思い切れない威圧感。死にきれない弱体化。


「治良君。制裁者としての仕事はどうしました?」


 スッと銀色の刃は自分の喉元から離れていく。


「たった今、やった所ですよ。間遠さん。」
「そうですか。それなら良かった。」


 寂しそうな笑みを浮かべながら軽く俺に会釈する。
 この人はいつも、俺や水落が『任務完了』の意志を伝えると、どこか哀しそうに会釈をする。 全世界の哀しいことは、全て、この人が請け負っているような、そんな物悲しげな笑みで俺たちに会釈する。
 嫌いじゃないんだ。只、怖いだけで。
 怖くは無いんだ。只、揺ぎ無いだけで。
 痛くは無いんだ。只、快楽で。
 哀しくは無いんだ。只、感情が無くて。



「さぁ、水落さんが待ってますよ、治良君。」
「あぁ、はい。そうですね。」





 恐れ多き哀しみを
 背負えなかった俺と水落の憎しみを
 いとも簡単に全て請け負ってしまった
 独りの制裁者。

 間遠さん…。


 俺たちは何時までもあんたのことを兄貴だと思ってます。



 姉貴を愛した兄貴は
 恐れ多くも
 俺たちの哀しみを
 請け負っている
 独りの制裁者。




20040330