flesh
食用:meat
牛肉:beef
豚肉:pork
鶏肉:chicken

ジン肉:human flesh



− 喰べられる −

[意味]
食物を口に入れ、かんで飲み込むことが出来ること。



















ENDLESS KILLNESS
- EDIBLE -
















 水落の元へ変える途中、道で手渡されていた広告を俺に手渡した。


『喰べられる食肉、人肉主用食事専門店:フレッシィー
 安い!美味しい!食べ易い!!!
 人肉を喰べるなら、フレッシィーへ☆』




「何、これ?」
「手渡された、『フレッシィー』の広告ですよ。」
「へぇ…。で、何で態々、俺に渡すわけ? 大体、俺は喰わねぇよ。」
「そそられません?こう云うの。」


 間遠さんがクツクツと笑って答えた。

 最近、思う。
 俺よりも間遠さんのほうが数段、嫌味だ。いや、数段なんてもんじゃないと思う。
 数段なんて数字、当てにならない。どう考えても上の上。頂点をぶっちぎり1位だ。
 冗談が通じない。通じないというより、間遠さんの冗談が本気なのか冗談なのか分からない。
 本気で性質が悪い。俺よりも。水落よりも。姉貴よりも。

 少し腹が立ったので、言い返してみる。
 無駄な足掻きだとは分かっていても、してみたい独創。


「喰べてみたいような言い方するんですね、間遠さん。喰べたいんですか?」
「喰べに行ってみますか、治良君?」
「嫌です。絶対食べませんから。」
「フフッ…そうですか…勿体無い。結構美味しいんですよ、アレ。」
「…え………?」


 思考一時停止。
 喰べたことがあると、聞こえた。
 云っていない。そんな言葉、ヒトコトも聞こえていない。

 けれど。

 けれど、この人の一言、一言語が、怖く恐ろしくおどろおどろしいことは、確かだ。
 嘘に聞こえない嘘。真実を帯びすぎている真実。現実を見詰め過ぎた現実。
 どれを取っても、この人には敵わない。敵いようが無い。

 かつて、怖いもの知らずだった俺を震撼させ、妹を光悦させ、姉を恍惚させた人物。


「ふふっ。静かになりましたね。どうしました?」
「いえ、何でも無いですよ。何でも。」
「そうですか。『何でも』ですか…。ふふっ。」


 楽しそうに笑う義兄。
とても楽しそうに口元だけ緩ませる。
笑わない眼はいつもどこか遠く。はるか遠くを見詰める。
俺達の知らない空のムコウを見る。

 一度、カマを掛けてみる。
そんなこと、義兄には何の効果も与えないけれど。
ただ、気になってしまった。
肉という存在を。
ヒトという肉の存在を。
自分の知らない世界を。

知りたくなった。


「肉とは…どんな味がするんですか?」
「…昔は美味しいものでした。動物の肉は美味しい物でしたよ。」
「…………」
「人間の肉は――――…

 哀しい味がしました。」


 とても、とてもとても、哀しい顔をした。
今にも泣きそうに、遠いところを眺めて。
ただ、その姿に魅入ることしか出来なかった。
それ以上、何もすることが出来なかった。

 遠い、遠い遠い、場所。
その場所は辿り着ける場所なのかは分からない。
ただ、俺には何を想うのか見当もつかなかった。
それ以上、それ以下のことを見つける術を知らなかった。

 俺と水落はこの世界を知ら無過ぎた。

 ただただ、遠くを見ることを哀しく耽って。
 ただただ、遠くを夢見ることに悲しみ募って。
 ただただ、遠くを見詰めることに愛しく願って。


 俺達はまだ知らない世界に足を踏み入れて。


 もがいて。


 遠く。


 さらに遠く。


 知らない場所を目指す。







「間遠さん。ご飯、喰べに行きません?」
「いいですよ。何を食べますか?」
「牛丼が食べたいです。」
「良いですね。久し振りの肉ですか。イイ牛丼屋知ってますよ。」
「じゃあ、三人前頼んで、家で食べましょう。」
「ふふっ。分かりました。」


 笑って、歩いていた方向の逆を向く。
 そして、歩き出す。
さっきよりも早く。



 今の時期、牛丼を置いている店なんて、裏の店にしかないのだろうけれど。











20040912