2ヵ月目。
「ねぇ、
劉。
魏几って呼んでよ」
「嫌だね。魔王と親しくする勇者なんて聞いたことねぇよ」
[勇者と魔王3]
「さり気に酷いね。折角“鏡闇の間”のこと教えてあげてLevelが10コも上がったのに」
「俺は魔物に恩を売ることはしない」
勇者は剣を振っている。
どうやら、剣の練習中のようだ。
「酷いなぁ。元は人間なのにー」
魔王は茶目っ気たっぷりに
微笑顔を振り撒いた。
「人間? おまえが? あはは。冗談も大概にしろよ?」
勇者は剣を振る手を止めない。
「君、本当に魔物狩りの勇者なの?」
魔王は、
微笑顔を止めない。
勇者の手は、やっと止まった。
「嘘に決まってる」
勇者は嘲笑って魔王を見る。
魔王はけろりとしている。
「嘘じゃないよ?」
「何で……何で…………? 人間? 嘘だ」
勇者の目の前に『驚愕』の事実。
「君、勇者だよね?」
「煩い! 理由をワケを教えろよ!」
勇者は魔王の胸倉を掴んだ。
魔王は微笑んでいる眼を不意に開け、勇者を直視する。
勇者は――……
その眼に魅入る。
「放してくれるかな、
劉?」
魔王は勇者の本当の名を呼ぶ。
「……何で……。魔王……? 人間? 嘘だ。嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああぁぁぁぁああぁぁあぁぁ!!!
信じない!!
私はそんなの信じない!!!」
勇者は魔王の胸倉を掴んだまま、叫んだ。
俯いて、その声を張り上げる。
『事実』に『驚愕』し、『恐怖』に『驚』きながら。
勇者は次に魔王の――――……
その声に魅せられる。
「嘘は、吐かないよ。
劉、顔を上げて?」
魔王は勇者の本物の名を呼ぶ。
「
私は、ヒトを殺して―――?!」
「落ち着いて、
劉。君はヒトを殺してなんか、いない」
「じゃあ、私が殺していたのは何なんだ?」
魔王は、微笑み、誘う。
勇者は問う。
「君が殺しているのは、全て、殺しても良いモノなんだ」
「でも……ヒトは……元は人間―――……!!」
勇者は、魔王の腕に爪を立てて握り締める。
魔王は勇者をその
腕に抱える。
「元は人間。でも今は、
人間じゃない」
魔王は
微笑顔で宥めるように、勇者に言葉を発する。
「だから、ね。お休み、
劉。
現実を外れろ」
魔王は、勇者に≪
睡眠≫の魔法をかけた。
今あったことを、忘れているように≪
盗取≫の魔法と共に。
「君は、まだ、そのことを知らなくて良い」
魔王は、
微笑顔で囁いた。
「俺の名が
廿泉だったと云うことも……」
最後の言葉に
微笑顔は無かった。
平和な現実。
平和な存在。
平和な世界。
それ異常に、危険な世界。
勇者と魔王2|
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勇者と魔王4
20040725