「うふふ。こんにちは、勇者様vv」
「……誰」



[勇者と魔王7]



通算13回目。
どーせまた簡単にあしらわれて終わるんだろーなー……とか思ってて顔に出てる勇者。
そこに現れたのは金色の髪と九つの金色の尾を持つ、狐耳の女。


「やけに沈んでるわね、勇者様vv」
「そりゃあまぁ……」


その言葉でさらに勇者は沈む。
狐女はカラカラと笑う。


「じゃあ、今から魔王様の城になんて行かなければ良いじゃない」
「そーゆーわけにはいかない」


勇者は魔王を倒す使命がある!と、拳を固く握る。


「いーじゃない。おねーさんといいことしましょvv」


狐女はフェロモンを撒き散らしながら、勇者に近付いた。
勇者は後退った。


「うふふ。恐がらなくてもいいのよvv」
「……俺には色気なんか通用しないぞ?」
「そんなこと言って、ガマンしてるんでしょvv」
「……してません」
「んもぅ〜強情なんだからVvv」


勇者は更に後退るが、狐女は更に近付いてくる。
勇者は剣を抜き、真剣な顔をする。


「ちっ近づいたら――……斬る!!」
「んふvv うふふふふふふ……」


真剣な勇者を尻目に狐女は嘲りに近い笑いを向けた。


「あはははは。貴方……自分のLevel、分かってる?」
「Levelのことは言うなぁ!!!」


勇者は剣を振り、わああ!と叫んだ。
っていうか、半泣きっぽい。


「はーい、そこまでなのっ!」


勇者の後ろからガバッと誰かが抱き付いてきた。
この口調からして、すぐに誰かは分かるだろうけど。


「アイスちゃん?!」
「ということは、魔王様Vvv」
「やあ、勇者。久し振りだねvv」


魔王は狐女を完全に無視。


「やーん! アウト・オブ・眼中しないで魔王様vv」
「煩いよ、野干(キツネ)。勇者は俺のだ」
「えぇー?! 魔王様ってば、女に興味が無いと思ったら、そっち系のお人?!」


野干と呼ばれた狐女は驚きのあまり、目がぐるぐると回って卒倒しそうになっている。


「アタシがいくらアプローチかけても落ちないわけだわ……」
「言っておくが、勇者は()だぞ」
「……」
「そうなの! 劉ちゃんは、ぎーちゃんの恋人なの!」


アイスが勇者の隣で踏ん反りがえって得意げに言う。
その言葉に憤り、ふるふると小刻みに震える狐女の野干。


「なぁんですってぇ!!??」
「ひいぃ!!」


野干の怒りはもちろん勇者に向けられている。


魔王様の城(マストロフィス)に行こうとしてたのは、ただのデートなのね?! 惚気なのね!?」
「ちちち違うよ! 何でいきなりこんな殺気立ってんの?! わ゛ぁーーー!!」
「――……冷静止音(コールド・メロディ)


魔王が小さく呪文を唱えると、アイスが静かに歌を唄った。
野干は勇者に手をかけようとして止まる。


「野干、勇者に手を出したら、許さないよ」


にっこりと笑う魔王にグゥの音も出ない野干。


「そんな顔は野干に似合わないよ」


魔王は野干に近付き、手馴れた手付きで野干の顎を持ち上げ、そっと頬にキスを落とした。
野干は魔王の行動に口をパクパクさせている。
勇者も野干への魔王の行動に口をパクパクさせていた。


「さ〜て、勇者。恋人に対する数々の暴言、許されないなぁ……」
「恋人じゃなくて()人だろ?!」
「……」


勇者をひょいっと持ち上げる魔王。
そのまま魔王の城へ直行。


「うわあぁ!! 嫌だ! 放せぇぇ!!」
「ぅふふふふふ。ナニをしてやろうかなー?」
「ギャアアァァ!! 嫌だぁぁ!!」




その後、勇者がどうなったのかは、
誰も知らない。







勇者と魔王6作品ページ勇者と魔王8
20050723