3ヵ月目。
「最近、Level売りとか云う、胡散臭い商売があるらしいよ」
「なぁ、何で相席してんだ?」



[勇者と魔王8]



「なんとなく」
「『なんとなく』ですませんな」
「だって、他人じゃないじゃない? 相席したっていいじゃない?」

勇者は昼食中。
にこにこしながら魔王は勇者の前の席に座っている。

「俺は今、ランチタイムなの。1人で優雅に食べたいの」
「うん、私もそうだよ。でも、私は勇者と食べたいな」

勇者はランチセットについていたサラダを食べながら、悪態をつく。
魔王はそれを華麗にスルーしながらカレーライスを食べる。
あ、シャレじゃないです。

「で、なんだよ。Level売り? ってなんだ?」
「あ、聞いてくれてたんだ」

カレーを掬って口に運ぶ動作すら綺麗な魔王。
勇者はオレンジジュースを飲みながら見つめる。

「Level売りっていうのは、そのままの通り。
 上げたいLevelに応じてお金を払えばLevelを上げてくれるんだって」
「へえ、便利な世の中になったんだな」
「うん。でもね」

いきなり神妙な顔にする魔王に、勇者は戸惑う。
魔王は勇者に顔を近づけ、小さな声で言葉を交わそうとする。

「な、なんだよ」
「便利ってことは、苦労しないってことなんだよ」
「そりゃそうだろ」
「苦労しないってことは、後回しにしてしまうんだよ」
「? どういうことだ?」
「……便利になるとね、人間は衰退しちゃうんだよ」

眉をひそめて、まるで未来を見てきたような喋り方をする魔王。
その表情に勇者の眉間にもしわがよる。

「衰退?」
「うん。自分が強くなくたって、誰だって簡単に強くなれるなら、強くなる必要なんてないでしょ?」
「そ、そうだけど、魔王を倒したいって思うやつはたくさんいるし」
「それは、名声を得たいってことだけどさ、簡単に得られるかもしれないんだよ?」
「なにを?」
「魔王を倒せるだけのLevel」

にやりと笑う魔王。
勇者は目を細めてから、魔王から離れ、頭をかく。

「そんなことしても、倒したって感じにならないじゃん」
「そうだろうけれどね。うん、そうであってほしいけどね、」

魔王は意味深に言葉に間を置く。

「最近、確実に“普通の勇者”は魔王の城に近づかなくなってるよ」
「……“普通の勇者”?」

魔王の言葉の意味が解らず、勇者は首を捻る。
勇者の行動に、なるだけ笑顔で答える魔王。

「……人間はLevel1000までしか上げられないって教えたよね」
「え、ああ。魔物とかはLevel∞なんだろ?」
「うん、よく覚えてたね。そのLevelってね、なんで限界が1000なのか解る?」
「……さあ?」

勇者は魔王との会話に集中しだしたのか、ランチには手を付けなくなった。
魔王も大事な話なのか、カレーライスに手を付けない。

精神の限界(メンタル・リミット)なんだよ」
「……人間の限界が1000ってことか?」
「そういうこと。Level1000が人間にとっての限界Level。
 それ以上のLevel上げはタブーだし、聖玉で経験値がそれ以上入らないように制御されている」
「聖玉を外せば、それ以上のLevelを上げることが可能なのか?」
「うん。可能だよ。けど、人間には戻れなくなる(、、、、、、、、、、)

にこりと笑って見せる魔王。
勇者はその笑顔にぞっとする。

「じゃあ、魔王は」
「私は聖玉を外したらどうなるのか知りたかったんだ」

小ぶりの水色の短剣を取り出して、勇者に見せる。
勇者は短剣に付いた聖玉を見た。

「外れてないじゃん」
「つけ直したからね。……でも、経験値の制御はなくなったんだ」
「だから今でもLevelが上がり続けてるのか」
「そう。私はまだいいほうなんだ。人型を保てているからね」
「……どういうことだ?」
「おっと……話しすぎちゃったね」

ランチタイムが終わったようだ。
店は早く閉じたがっているようで、勇者と魔王をウエイターがこちらを見ている。
勇者は一生懸命、頬張る。

「続きが聞きたければ、聞く覚悟が出来てから魔王城においで」

魔王はカレーライスの残りを食べ終えると、自分と勇者のランチ代を机に置いて、席を立った。







勇者と魔王7作品ページ勇者と魔王9
20120713